錦鯉販売・らんちゅう販売専門店 / カトウ養魚場

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らんちゅう歳時記 入門編3


選別
 稚魚が餌を食べ始めると池の底にフンや餌の食べ残しが溜まりますし、アオミドロなどの長い藻が生えてくる場合がありますので、稚魚を吸い込んだり傷つけないように注意しながら、エアーホースやスポイドなどを使って底に溜まったゴミを吸い取って、水が減った分だけ水温を合わせた汲み置きの水を足してやるようにします。
 孵化後2週間から3週間経つと稚魚も大きくなり、尾鰭の開き具合の良し悪しが分かるようになりますので、天気の良い日を選び、水替えを兼ねて第1回目の選別をします。
 選別をする日の2日から3日前に新しい池に水を張り、十分にエアーレーションをしてこなれた水を作り、選別当日にお湯を足して水温を合わせて準備をします。ただし、選別した稚魚はまだ小さくて強い水の動きには耐えられないので、稚魚を入れる時にはエアーレーションを稚魚が流されない程度に弱くするか、池が広くて稚魚の数が少ないなら止めても良いでしょう。
 池の角などミジンコやブラインシュリンプなどの餌がいる所に稚魚が集まっていますので、選別がしやすいように白い洗面器を使って水といっしょに稚魚をすくい上げます。稚魚は弱くて傷つきやすいので、強い水流を起こさないようにし、洗面器や選別網で稚魚を傷つけたり押し潰したりしないように細心の注意を払ってください。短時間で選別を終えないと、洗面器内の水温が上がったり酸欠になったりして稚魚が弱るので、すべての準備を整えてから選別を始めましょう。
 1回目の選別は尾鰭の開きの悪い魚や体が曲がった不良魚を除き、尾鰭の開きの良い魚だけを残します。選別には良い魚を拾う方法と不良魚を取り除く方法があり、それぞれに一長一短があります。良い魚を拾う方法だと時間は早く済みますが、良い魚を見落とすことがあります。不良魚を取り除く方法は、良い魚を見落とすことはありませんが、時間がかかりますし、多くの魚を残すようになりやすく魚の数を思い切って減らすことができません。しかし、時間と池に余裕があれば、選別に不慣れなうちは不良魚を取り除く方法が良いかも知れません。
 順調に子取りができていれば、3,000尾くらいから数千尾の稚魚が育っています。良い稚魚が産まれた割合にもよりますが、1回目の選別で5分の1から10分の1くらいまで数を減らします。慣れないうちは数を多く残してしまいがちですが、孵化後2週目に選別を行うなら池の面積1坪当たり300尾前後、3週目に選別を行うなら200尾前後を目安にします。選別で残す稚魚の数が多い場合は、前の面積あたりの稚魚の数を目安にして、稚魚を複数の池に分けてやります。
 1週間後に、2回目の水替えと選別をして前回見落とした不良魚を除きます。稚魚の成長に伴い尾鰭や背形の欠点が分かるようになりますので、1週間間隔で行う水替えの度に選別を繰り返して、サシ尾や背形の悪い不良魚も除きます。餌を十分に与えることができず成長に差ができてしまったときは、選別のときに稚魚の大きさを揃えて池を分けてやると良いでしょう。
 孵化後1ヶ月で大きさも2センチくらいになりますが、その時の選別で1坪当たり100尾前後の数になるように、選別して魚の数を減らすか複数の池に分けます。
 1ヶ月が過ぎる頃からは、水温も上がり始め水の傷みも早くなりますので、5日間隔で水替えと選別を繰り返し、4センチ前後になる夏には1坪当たり20尾から30尾に、6センチ前後になる秋には10尾から15尾になるように絞り込んでいきます。
 やはり、良い魚を育てるには、数を減らして適正な数で薄飼いしてゆったりと育てるのがポイントです。
 「選別で不良魚として取り除く魚は、らんちゅうの飼育に関する本などに図解で欠点の説明が出ているが、逆にどのような魚が残すべき良い魚で、どのような魚が将来良くなるのですか?」と言う質問を頂きます。
 この場で、このような魚が良くなるので残してくださいと説明をしたいところですが、それができないところが、らんちゅう飼育の難しいところで奥の深いところです。 小さいときに良い魚が将来も良くなる確率が高いのですが、尾を例にすると青子の間は尾の開きが良く、尾に張りのある魚を残してくださいと説明しますが、良い魚として残した魚も成長に伴い変化していきますし、その変化の仕方が一律ではないのです。  皆様が飼育されているらんちゅうの系統、青水の使い方や池の面積あたりの飼育尾数などの飼育方法、日当たりなどの池の環境、気温や日照などその年の気候等など、いろいろな条件により成長に伴う変化の仕方が変わってきます。
 小さいときに尾の開きが良く張りもあって良かった魚が、成長に伴い尾の張りが弱くなることがあります。尾の張りが弱くなる傾向にある系統の場合や飼育方法の人は、そうならないように飼育に注意するのと併せて、小さいときには尾の張りがやや強すぎるくらいの魚も残すと、秋には丁度良い尾の張りに育つ魚が出てきます。
 逆に尾の張りが強いまま育つような系統や飼育方法の人は、そうならないように飼育に注意すると共に、小さいときに尾に張が強いような魚は残さないようにします。
 また、背形などで魚が小さいうちは気になる欠点があっても、魚が成長して太みが付いてくると欠点がカバーされて苦にならなくなる場合もあります。
 まったく欠点のない100点満点の魚はいないと思ったほうが良いくらいで、小さな欠点ばかりを気にしすぎると、その魚が持つ本当の魅力を見落としてしまうことにもなりかねませんので、その点でも注意が必要でしょう。
 このように、選別で残す魚と取り除く魚を言葉や図解で説明するのは難しいですし、皆様の飼育方法により左右されますので、失敗を恐れずいろいろと試して経験を積んでいただくしか方法がないのです。
 尚、品評会での入賞魚は魚のできあがった姿ですので、入賞魚の写真を見て、稚魚のときから入賞魚と同じような姿かたちの魚を残そうとしても無理ですし、生育途中の稚魚にできあがった魚と同じ姿かたちを求めるのは無意味です。

姿かたちへの影響
 同じ親から生まれた青子を何人かで分けて違った人が育てると、秋の品評会の頃にはまったく違う魚に見えるほど、姿かたちや雰囲気が違う魚に育つことが多くあります。これは、途中での選別で残す魚の違いも原因の一つですが、飼育方法や環境による影響も大きいと考えられます。らんちゅうの姿かたちは、遺伝により80%から90%が決まってしまうと言われます。
 しかし、残りの10%から20%は飼育方法の影響を受けると考えられます。そこで、飼育方法や環境によって影響を受けると考えられる点について、少し踏み込んでお話ししてみたいと思います。
 ただし、これからお話しする飼育方法や環境で育てると、全ての魚がそのように育つわけではありませんし、逆効果の場合もあるかもしれません。さらに、ある一部分については良くても、他の部分には悪影響を与える場合もあり一長一短があります。それでも、姿かたちが、こうした飼育方法や環境の影響を受ける所が、らんちゅうは作るものと言われるゆえんです。
 このように書くと、姿かたちの悪いらんちゅうが、飼育者の腕で素晴らしいらんちゅうに変身するように思われるかもしれませんが、あくまでも良い素質を引き出してさらに良い魚に育てる飼育技術ですし、逆に魚の形が崩れるのを防ぐための飼育技術と言っても良いかもしれません。
 また、素質を持った魚を見抜く選別眼と、飼育者の技術がうまくかみ合って、初めて良いらんちゅうが育つと言えるでしょう。
 良いらんちゅうを育てる方法には、個々の魚に合わせてこれらの飼育方法を利用して姿かたちをコントロールする方法と、自分の飼育方法が魚に与える影響を考慮して選別で残す魚を選ぶ方法があります。

尾鰭への影響
 らんちゅうが池の中を常に活発に泳ぎまわるような環境で育てると、尾鰭に水の抵抗が多くかかった状態になりますので、どちらかと言うと尾鰭の張りが弱く(「ゆるく」とか「あまく」と表現される場合もあります)なりやすい傾向にあります。
 それでは、どのような環境のときに魚が活発に泳ぎまわるかと言えば、
@新水で飼育し、常に魚に刺激を与える。
Aエアーレーションを強くし、水流を強くする。
B魚が隠れてじっとしていられるような日陰を作らない。
C餌を少量ずつ与え、常に餌を探し回るような状態にする。
D飼育密度を少し高くし、常に魚が競争するような環境にする。
などが挙げられます。
 従って、尾の張りが強すぎる場合はこのような環境で飼育すると、秋にはちょうど良い尾の張りの魚になる場合があります。
 逆に、魚があまり泳ぎまわらないような環境で育てると、尾鰭にかかる水の抵抗は減りますから、どちらかと言うと尾鰭の張りが弱くなるのを防ぐと言われます。
 魚があまり活発に泳ぎまわらない環境は、
@適度な濃さの青水で飼育する。
Aエアーレーションを弱くし、水流を弱くする。
B魚が隠れてじっとしていられるような日陰を作る。
C餌を一度に十分に与え、満腹でじっとしているようにする。
D飼育密度を少し低くし、魚同士の競争を減らしてゆったりと飼育をする。
などが挙げられます。
 従って、尾の張りが弱めの魚は、このような環境で育てるように心がけると良いと言えるでしょう。
 その他、池の広さ・水深・水温・気候なども影響すると考えられます。
 尾鰭が柔らかい当才の間は、特に飼育による影響を受けやすいと言えますし、魚をすくった時に尾鰭を傷めると、その部分が段になったりして尾形が悪くなることがあるので、日頃の飼育管理に注意すると共に慎重な取り扱いが必要です。

頭への影響
 頭(かしら)の肉瘤(こぶ)の発達の仕方には、当才魚のときから発達する早生の系統と、二歳、三歳と年を経るにつれて段々発達してくる晩生の系統があり、頭の肉瘤の形も龍頭(たつがしら)や兎巾頭(ときんがしら)などの色々な形がありますが、いずれも遺伝による影響が大きいと言われます。従って、頭の肉瘤の発達の良い親からは、やはり頭の肉瘤の発達の良い子供が生まれる確率が高くなります。
 しかし、頭の肉瘤が発達する素質を持っている魚でも、飼育方法や飼育環境が悪いと、せっかくの素質が発揮されないまま終わってしまうことになりかねません。
 それでは、頭の肉瘤の発達するようには、どのような飼育方法や飼育環境が良いのでしょうか。
@飼育池の水深を魚の成長に合わせた適度な水深にし、青子の間はどちらかと言えば水深を浅めにする。青子の時から水深が深い池で飼育すると、肉瘤の発達が不十分になる傾向にあります。これは、水圧が悪い影響を与えていると考えられています。以前に、番外編的に錦鯉の池や濾過槽の中で育っているらんちゅうの話をしましたが、このような水深の深い池での飼育は、肉瘤の発達と言う点から言えば問題のある飼育方法です。
A適度な濃さの青水で飼育する。水質の悪化に注意しながら青水で飼育することにより、肉瘤を発達させる餌の一つである、植物プランクトンを十分に食べさせることができます。しかし、青子のうちから魚が見えないほどの濃い青水で育てると、水替えですくうときに魚を傷つけやすいので姿が見えないほど濃い青水は問題があるでしょう。
B池の掃除のときに、池壁に付いたコケを残すようにする。青水の中の植物プランクトンと併せて、コケを食べさせることが大切です。コケも肉瘤を発達させる餌の一つです。
Cできるだけ生餌を与える。ミジンコ、ブラインシュリンプ、赤虫、糸ミミズなどの生餌で育てることができたら最高です。人口飼料で育てていても、生餌や冷凍餌をできるだけ与えると、やはり違いが出てきます。特に、魚の基礎ができる青子の間には、必要不可欠と言えるでしょう。
D運動を控えめに(活発に泳ぎ回らないように)しながら、餌は十分に食べさせる。栄養が、体ばかりではなく、頭の方へも行き渡るようにすると言うことだと思います。体がどんどん大きくなると、肉瘤の発達が追いつかないようです。

 十分に発達した頭の肉瘤は、らんちゅうの特徴の一つであると共に、魚の良し悪しを決めるポイントの一つになります。
 しかし、肉瘤は発達していれば良いと言うものではなく、らんちゅうの姿かたちの全体のバランスが大切です。目玉を覆い隠すくらいに異常に発達した肉瘤は、かえって魚の品格を落としてしまいます。

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